フヒねむのブログ

ねむくて仕方がない日々の記録を残せたらいいな、と思っています

【読書感想】「「『ジューシー』ってなんですか?」」

「『ジューシー』ってなんですか?」 (集英社文庫)

25歳の広田と岸、佐々木、26歳の別所、27歳の魚住と津留崎。6人は、大きな会社の中の小さな班「夕日テレビ班」で毎日深夜まで地味な仕事をしている(ちなみに非正社員が3名、正社員が3名)。恋人でも友達でもない、立場も微妙に違う、けれど同じ職場の同僚として会話を交わし笑いあう。仕事を詩的に描いた著者初の“職場小説”。平等とは何かを問う「ああ、懐かしの肌色クレヨン」も収録。

Amazon内容紹介より

かわいい夫」で山崎ナオコーラ氏の文章の素敵さをやっと認識できたので、続けざまに既刊の数冊を文庫で購入しました。こちらはその内の一冊です。自分自身に何で今までちゃんと読んでいなかったの…と言いたくなりました。順次、気になった順に既刊の本を読んでいこうと思っています。


さて「「『ジューシー』ってなんですか?」」ですけれども、とりあえずタイトルがかぎ括弧付きなので困りました。このブログでは感想を書く本のタイトルにかぎ括弧を付けて書いていたので、重複かぎ括弧になってしまうのですよね。更に本書のタイトルにはジューシーに二重かぎ括弧が付けられているので、もう何が何やらです。その理由だけで感想を書くのを止めておこうかとも思いましたが、内容は書いておきたいと思えるものでしたので、書いておきます。


表題作「『ジューシー』ってなんですか?」は新聞のラテ欄*1を作る会社のある部署の中の1つの班が舞台です。上記内容紹介にあるように、この班員のうち半数が正規社員でもう半数が非正規社員なのですが、よくある話で仕事内容はほぼ同じ。賃金は結構違いそうだけれど、働き方はどちらにせよブラック気味。そんな職場なのですが、少し捻くれていたり、面倒臭い人もいるにはいますが、全体としてみんな善い人で読んでいてツラくなることはありませんでした。これだけ労働環境がよろしくなければ、もう少し人に当たり散らすような人物が出てもおかしくないとは思うのですけれども、みんなまともです。ただ、年齢は25歳から27歳とあるので、確かに自分の周りでも現在の40歳以下くらいの年齢で人に当たり散らすような人って見たことがないかな、と納得してしまいました。年齢が上がるごとに、そういう人物は増えてくる印象もありますしね。

また作業系のお仕事ですから自分の経験したお仕事と雰囲気的には結構近いものがあるとは思うのですけれども、この職場、会話でのコミュニケーションがかなり豊富ですよね。もしかしたら自分のいた環境が異常に会話がなかっただけの特殊事例という可能性もありますけれども。世の中の一般的な職場ではこんなにたくさんの会話があるものなのでしょうか。そうだとすれば、ブラック気味なこととか、正規非正規の不平等さとかは別にしてなかなかに優しい世界だなあ、とか思いました。会話がないことが優しさのなさ、では決してありませんけれども、会話をすることはその時点で相手のことを何かしら考えなければなりませんから、優しさの質がより求められると思うのですよね。登場人物たちの大半が基本的には自分の主張の前に相手のことを考えてから言葉を発しているように感じられて、心地良かったです。


ちなみに同時に収録されている「ああ、懐かしの肌色クレヨン」に登場する男性・山田さんの優しさは個人的には苦手です。その優しさは「肌色」という言葉を使わない優しさのように感じられるから、とでも言えるかもしれません。ただ登場する女性・鈴木さんは「肌色」という言葉が使われて少しは傷付く立場にいながら、そんな言葉があった世界が好きだったのにもかかわらず、山田さんのことが特別に好きになっているので、もしかしたら自分が感じられていないだけで、山田さんの優しさは別のところにあったのかもしれませんね。


そんな訳で「「『ジューシー』ってなんですか?」」は山崎ナオコーラ氏らしい淡々としていながら、優しさの溢れる文章でとても心地の良い読書が出来ました。ただ上下の余白部分が少し広いのが気になりました。会話文が多いからなのかもしれませんけれども、少しテンポが悪くなったような読みにくさを感じました。「かわいい夫」に引き続き、読後感がとても良かったので山崎ナオコーラ氏の既刊全作を買うことにします。

*1:TV番組表の掲載されている部分