フヒねむのブログ

ねむくて仕方がない日々の記録を残せたらいいな、と思っています

【読書感想】「世界史を変えた薬」

世界史を変えた薬 (講談社現代新書)

医薬品というものは、どうにも不思議な代物だ。老若男女を問わず、誰もが薬のお世話になっているにもかかわらず、薬について詳しいことはほとんど何も知られていないに等しい。口から飲み込んだ小さな錠剤が、どのようにして患部に届いて痛みや炎症を鎮めるのか、簡単にでも説明できる人は相当に少ないだろう。

近年は、医薬品の過剰投与や副作用などネガティブな側面ばかりが強調されがちだが、人類は医薬品の発明によってその寿命を飛躍的に伸ばしていた。「死の病」と恐れてきた感染症は、抗生物質の発明により、ありふれた病気になった。あまり意識されないが、いくつかの医薬品は間違いなく、世界史を変え、人類の運命を変えてきた。

医薬の科学はなおも発展の途上にあり、今後さらに大きく社会を変えてゆく可能性を秘めている――というより、確実に変えてゆくことだろう。とすれば、医薬と人類の関わりを、歴史の流れに沿って眺めておくのは、意義のある試みであるに違いない。

Amazon内容紹介より

もうタイトルにひかれてしまいますよね。「世界史を変えた○○」というタイトルにしただけで読みたい気持ちは3割増しくらいにはなる気がします。そのタイトルのキャッチーさそのままに読みやすい文章でスラスラと読めました。取り上げられている薬も「ビタミンC」のような薬として認識していないものから「アスピリン」などまで、大抵の方がそれらの薬を使ったことがあったり聞いたことがあったりするものばかりで、身近な物だからこその興味がわきました。


さて「世界史を変えた薬」ですが、世界史的な出来事のいくつかを「薬」という切り口で語っていく、タイトルの通りの内容です。目次に並ぶ各章で取り上げられる薬は、ビタミンC・キニーネ・モルヒネ・麻酔薬・消毒薬・サルバルサン・サルファ剤・ペニシリン・アスピリン・エイズ治療薬となっています。各章15ページ前後で構成されていて、サラサラと読めます。ですから、薬について、もしくは歴史について深く、より正確に理解したい、という方が選んで読む本にはならないかとは思いますが、薬について、もしくは歴史について興味をもつ読書には十分になると思います。上でも書きましたが、文体は平易ですから読みやすいですしね。

また著者が注意書きしてあるものもありますけれども、特に古い時代のものについては逸話的な内容もありますし、そして現代のお話になってくると語られている人物の視点によってくるところもあるので、書かれている内容をすべて正確なものとして摂取するのは控えておいた方が良さそうです。ただ、それを差し引いたとしてもお話としてかなり面白く、それぞれのお話について詳細に書かれている類書を読んでみたくなるような興味をひいてくれる本であることは間違いありませんでした。自分は特にサルバルサン、病気としては梅毒について世界史的な視点で書かれた類書を読んでみたくなりましたね。梅毒の世界を駆け巡るそのダイナミックさとスピード感、当時の人間の平均的な移動距離や移動速度を考えると驚異的ですもの…。


それにしても自分は消毒薬やアスピリンなどは当然として麻酔薬も手術を受けるために全身麻酔を使っていることを考えると、本書で語られているような医学・薬学の進歩がなければきっと既に生きていないだろうなあ、とか思ってしまうのです。生まれつき、病気未満と言って良い程度の疾患を持っているので現代でなければ確実に平均寿命を縮める側の存在だったに違いありません。本書に登場する各種の薬を開発した中心となる人々を始め、先人たちの知恵と努力と犠牲の結晶として自分はまだ生きていられるのだなあ、とか考えるともっと謙虚に生きていかねば、とか思ってしまいますよね。


ところで本書の後半には薬の過剰投与についても少し書かれていましたが、今後現代から理解できそうな程度の未来の話として一番問題になりそうな部分だと思います。もちろん、各種病気に対する新薬自体もたくさんあるとは思いますが、世界史を変えるレベルの薬になると個別の病気に対抗する薬というよりは直接的に長寿を達成させるための薬とかになってきそうですし、それは少し先の話なのかな、とも思いますからね。それよりは本書にも書かれている食品となる動物への薬の過剰投与や、人体から排出された薬剤成分の河川・海洋汚染などによる悪影響の方が大きな問題になりそうな気がするのですよね。これも本書に書かれていましたが、薬の評価というのはある程度の時間が経たないと難しい、というのはその通りだろうなと思っていて、さすがに薬のすべてを合わせたら人類にとってトータルとしてマイナスということはないと思いますけれども、将来的に大きな負の遺産が知らぬ間に押し寄せてくることもあるのかな、とは思いました。


そんな訳で「世界史を変えた薬」はそのタイトルの通り、薬と世界史に対しての興味を引き起こしてくれる読書となりました。どちらかと言うとあまり細かいところを考えずに興味先行で読むべき本だと思います。更に突っ込んで読みたい時は類書をあたる方が良いでしょう。そういう意味では巻末にでも各章で取り上げた薬や病気についての本・参考文献などのリストは欲しかったですね。個人的には次に読みたい本が広がっていく面白い本でした。