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フヒねむのブログ

ねむくて仕方がない日々の記録を残せたらいいな、と思っています

【読書感想】「パプアニューギニアの食生活」

野ブタ、火喰い鳥、魚介類の狩猟と採集。サゴヤシの利用。イモ類の栽培。多様な環境に適応した食体系をもつパプアニューギニアに、近代化の波と共に加工食品が流入してくる。新奇な食物と栄養摂取で、“余裕なき平衡”を保っていた人々の生活、体格、疾病はどう変化したか。20年にわたる野外調査、精密な代謝分析をもとに伝統的食品の効用と“塩なし文化”の変容を検証し、パプアニューギニアを鏡に現代日本の生活と健康を映し出す。

Amazon内容紹介より

大前提として1991年に発行された25年前の新書という、パプアニューギニアの現状を表していないであろうと予想される部分はあります。調査期間がそれ以前に20年あることを考えると、部分的には半世紀近くは遡っている内容なのかもしれません。もちろん、変わっていない部分も少なからずあるでしょうけれども。という訳で、今のパプアニューギニアの食生活ではなく、少し前のパプアニューギニアの食生活という感覚を常に意識して読みました。


かなり遠くなってしまった自分の記憶を掘り起こしてみると、中学の頃の社会科の授業では、東南アジア島しょ部ではヤムイモ・タロイモを主食とした食生活が営まれている、と習った記憶があります。日本人が米食、西欧人がパン食であるのと同列に扱われていて、当時は特に何の疑問も持たずに「米を食べたり、小麦を食べているのと同じようにイモを食べている人もいるのだろうなあ」と、ただただ受け入れていました。

よくよく考えれば、あれだけの数がある島しょ部のすべてが一律にヤムイモ・タロイモを主食としているはずもなく、パプアニューギニアでは本書でも大きく扱われているサゴというデンプンを重要な食物としている地域も少なくないとのことで、事実の一端を知ることで、それが全体と錯覚してしまうことを意識しておかないといけないなあ、と今回の読書で改めて思いましたね。ちなみに、もちろんではありますが、パプアニューギニアでヤムイモ・タロイモを最重要食物としている地域も多いです。本書にはパプアニューギニアの地域別重要食物の図も掲載されています*1

サゴヤシは東南アジア島嶼部やオセアニア島嶼部の低湿地に自生する。サゴヤシの植物学的な研究は発展途上であり、原産地は未だ解明されていない。
東南アジアではイネの導入以前に主食の一端を占めていたと考えられている。南インドでも食べられている。パプアニューギニアでは現在でもサゴヤシのデンプンを主食とする人々がおよそ30万人いる。一方、ミクロネシアやポリネシアではほとんど食べない。
ソテツ属のソテツから取るデンプンは琉球列島や南日本でも食用とされていた。


ところでパプアニューギニアのいくつかの地域で最重要食物として取り上げているサゴですが、サゴはデンプン質以外の栄養素がほとんど含まれない食物であり、必要な栄養素を他の食物に頼らざるを得ないのですが、例外として鉄は非常に豊富に含まれていることが書かれています。サゴを主食として食べた場合、本書によると日本人の育ち盛りの若者の栄養所要量1日12ミリグラムの3倍以上を摂取することになるようです。厚労省による日本人向け適正栄養基準*2を見ると、年齢や性別によっては許容上限量を超えるか、ギリギリのラインですね。自分のような鉄分足りないおじさんは少しくらいサゴを食べる生活をした方がいいのかもしれませんが、鉄の過剰摂取は健康への影響も考えられ、本書ではその点も指摘しています。


また本書には、ソテツの毒抜き、ビアミ族による通過儀礼としてのカニバリズム、歴史の浅い焼畑農業、上記の鉄分摂取量と関連したマラリア罹患*3に関することなど興味深い内容が目白押しです。更に、わりとデータもしっかりと掲載しており、かなり信頼のおける作りになっていると思います。ただ、読んでいるとどうしてもパプアニューギニアの「現在」について書かれているものが読みたくなるのも事実で、本書の2016年版があったらなあ、と思わざるを得ません。もしかしたら、研究者が手にするようなものであれば、あるのかもしれませんが、一般書として読みたいですし、そういった本があった時には本書と読み比べる喜びは大きそうなのですがね…。


そんな訳で「パプアニューギニアの食生活」は発行された年を意識した読書とならざるを得ませんが、それでも、また今後はそれだからこそ歴史的に意味がある記録になると思える内容でした。必ずしもさらっと読める簡単な書かれ方ではありませんから、ぜひもう少し読みやすいスタイルでパプアニューギニアの現在をフォローした内容の本を読みたくなりました。

*1:1970年のものですが…

*2:PDF注意

*3:マラリア罹患の件では鎌形赤血球症の事例を思い出し「からだの中の夜と昼」を再読したくなりました